今回は、アートセラピー(芸術療法)をテーマに書いていきます。
アートセラピー、絵画療法,心理学に興味のある方はぜひお読みください。
CORUNUMは、アートを軸に活動していますが、「アートセラピー」という言葉が存在し、芸術は療法としても機能するようです。どんなものか気になりますね👀
このブログでは、アートセラピーの概要、対象、効果、方法、エビデンスについてWHOの報告書を元に書いていこうと思います。
目次
アートセラピーの概要
アートセラピーの定義:
アートセラピーとは、芸術的な活動を通じて感情の表現を促進し、精神的な健康をサポートする心理療法の一形態です。セラピストは、個人やグループと協力して、創造的なプロセスを通じて自己理解と自己表現を促します1)。
アートセラピーの対象:
アートセラピーの対象は、子供から高齢者まで、幅広い年齢層に適用できます。特に、トラウマやストレス、不安、うつ病、慢性疾患の管理など、さまざまな心理的および感情的な問題に対して効果が示されています2)。また、最近では、教育、保育の分野、一般の方々など、その適用範囲は広くなっています。
(アートセラピーの具体例)
高齢者向け:
認知症患者に対するアートセラピーは、記憶を喚起し、コミュニケーション能力を向上させることができます。また、孤独感を軽減し、精神的な安定感をもたらします1)。
子ども向け:
トラウマを経験した子どもに対するアートセラピーは、言葉で表現しにくい感情を絵で表現することで、安心感と心理的な支援を提供します。これにより、子どもの情緒的な回復を促進します2)。
アートセラピーは、様々な心理的問題にアプローチ🏹できる手法なんですね。幅広い年代の方🧓🧒🧑👩を対象にできるのも魅力です
アートセラピーの効果
アートセラピーの効果は多岐に渡ります。今回はアートセラピーの効果についていくつか
ピックアップして皆さんにお届けいたします!
①感情の表現:
アートセラピーは、感情を視覚的に表現することで、自己理解を深め、感情の整理を助けます。特に、言葉では表現しにくい感情やトラウマの経験を描写することで、心の負担を軽減するようです1)。
②ストレスの軽減:
アートセラピーのような創作活動はリラクゼーションを促進し、ストレスホルモンのレベルを低下させることが示されています1)。
③痛みの管理:
アートセラピーをはじめとする音楽や視覚芸術を用いたセラピーは、慢性的な痛みの管理や緩和に役立ちます。これによって、患者の生活の質が向上するという報告があります2)。
④リハビリテーションの支援:
アートセラピーは身体的なリハビリテーションの一環として、手先の器用さや協調性を向上させる活動が行われることがあります1)。
⑤コミュニティの形成:
グループでのアートセラピーは、参加者同士の交流を促進し、社会的なつながりを強化します。これにより、孤独感の軽減や社会的支援ネットワークの形成が進みます2)。
感情の表現について、私は、歌を歌ったり🎶、絵を書いたり🎨すると、なんとなくスッキリすることがあります。厳密にいうと違うかもしれませんが、アートセラピーの効果もそれに似ているのかもなと思いました。皆さんも自分なりの息抜きの手段があるのではないでしょうか。
もしかしたら、アートセラピーと似たような効果を感じているかもしれませんね。また,ストレスホルモンなど生理的な指標🌡️もセラピーによって変化するなんてびっくりですね😲人との繋がりを作ってくれるのも、孤独・孤立問題が深刻化する日本🥀では、ニーズがありますよね🌹✨
アートセラピーの方法
表現活動の相違によって、絵画療法🖼️、造形療法、コラージュ療法、音楽療法🎵、心理劇🎭、詩歌療法、箱庭療法🏠、舞踏療法💃など多様な形態を取ります。
例えば、描画と絵画を表現方法とする絵画療法では、自由に絵を描く🖌️ことで、内面的な感情♥️を表現し、自己洞察を深めます🔍
また、彫刻やクラフトで自己表現をする造形療法では、手先を使う創作活動🤚は、集中力を高め、達成感を得ることができます。
コラージュ療法では、雑誌の切り抜きや写真を組み合わせることで、視覚的なストーリーを作り出し、感情やテーマを探求します。音楽療法,舞踏療法では、音楽と動きによって表現し、音楽を聴いたり👂演奏したり🪈、リズミカルな動き🪇を取り入れたりすることで、感情の解放とストレスの軽減を図ります。
アートセラピーは、多様な形態を取れるので、対象年齢、ニーズに合わせた柔軟なアプローチが可能になりますね。そして、その効果は心理的、身体的、社会的な健康に幅広く及びます。
エビデンス
(心理学的理論から)
表現療法の理論: アートセラピーは表現療法の一部として位置づけられており、芸術的な表現を通じて自己探求や感情の処理を促進するという考えに基づいています。フロイトの精神分析理論では、無意識下の感情や葛藤が創作活動を通じて表現されるとされています1)。
認知行動療法(CBT): アートセラピーはCBTの一部として使用されることがあります。例えば、絵を描くことでネガティブな思考パターンを視覚化し、それをポジティブなものに変えることができるとされています2)。
発達心理学(子どもの発達): ピアジェの発達理論に基づくと、創作活動は子どもの認知発達と情緒発達を促進します。アートを通じて自己表現を行うことは、自己認識や問題解決能力の発達に寄与すると考えられています1)。
(実験研究から)
臨床研究
うつ病の治療: アートセラピーがうつ病患者に対して有効であることを示す研究があります。例えば、うつ病患者を対象にした無作為化比較試験(RCT)では、アートセラピーを受けたグループで症状の顕著な改善が見られたようです 1)。
PTSDの治療: 戦争帰還兵やトラウマを経験した個人に対するアートセラピーの効果が研究されています。PTSD患者を対象にした研究では、アートセラピーがフラッシュバックや不安の軽減に寄与することが示されています1)。
実験研究
生理的反応の測定: アートセラピーの効果を生理的に測定する研究も行われています。例えば、血圧や心拍数の変化を測定した研究では、アートセラピーがリラクゼーションを促進し、ストレスホルモンのレベルを低下させることが確認されています2)。
神経科学的研究:
脳の活動: fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた研究では、アート活動が脳の特定の領域を活性化し、感情の調整や創造的思考に関連する脳のネットワークを強化することが示されています1)。
つまり、アートセラピーは、理論的にも実験的にも効果のある心理療法なんですね。
心理学的理論では、自己表現や感情の処理を促進する手段としての有効性が説明されています。
表現せずに溜め込んだまま🙊ってよくありますよね。王様の耳🫅がロバの耳🫏だということを人に言えず🫢に、地面に掘った穴の中へ叫ぶ床屋さん🕳️📢もいますが、噂は言いふらさずにはいられない...表現の欲求には合点がいきます🫡その手段にアートも含めましょう。
臨床および実験的な研究では、具体的に心理的および生理的な効果が示されていました。ストレスホルモンのレベルなら数値でわかるし、脳の活動なら目で見てわかります。セラピーの効果は、ふんわりしていると思っていたので、驚きですね👀
1)World Health Organization (WHO):https://www.who.int/news/item/25-09-2023-ground-breaking-research-series-on-health-benefits-of-the-arts
2)NeuroArts Blueprint:https://neuroartsblueprint.org/image-aligned-left/
ここまで、ざっくりとアートセラピーの定義、対象、方法、効果、根拠について紹介しました。ところで、学生団体CORUNUMでは、絵画教室を開催しております。そういえば、絵を描くという表現方法を使ったアートセラピーは、絵画療法🖼️と呼ばれていましたね。次は、これについて、言語性、技法、効果、根拠を書こうと思います。
みなさんは左の絵を見て、描いた人はどんな人だと想像しますか💭また、それぞれの絵を書いた人に向けてどんなコメントをしますか🙋
イラストは、図形やアイコンを駆使して,実際描かれた絵を参考に,作成したものですが、実際には色の濃淡、色彩、筆圧など、もう少し表現の幅が広く、様々な情報が含まれてくることと思います。
絵画療法では、絵を描くことによって、自己表現を促し、クライエントの心の一部の現れとみなし、解釈します。クライエントと絵についてシェアリングすることで、言語化のきっかけ🗣️や気づき💡を提供することも多いです。
絵画の持つ言語性について
心理面の理解促進:精神科医の飯盛3)によると,絵画には,イメージや無意識的動きが,時に言語以上によく表現されたり,言葉のみのやり取りでは気づきにくい対象者の内面が投影されて現れたりすることがあるそうです。画用紙の使い方、全体のバランス、印象、筆圧、色使い,などを見て、対象者について、心理面を理解するのに役立てるようです。
言語活動の促進:
アートセラピーを確立したアメリカの精神分析家ナウムブルク4)によると,内的体験が絵画として対象化され,言語化の難しさに直面しなくて済むことに加え,象徴的イメージは言語表現よりも,心理学者フロイトの言う「検閲」を回避しやすい,という2つの効果があるようです。
寡黙な人も、自分の絵を説明しようとするのをきっかけに、話し出す例も少なくなかったとか。
絵画療法の技法
自由描画、テーマ描画、コラージュ、曼荼羅描画、グループ描画など様々にあります。
絵を描くということは、言葉で話すことと同じように、表現するという機能を持つのですね。言葉は日常生活の中では、メジャーな表現方法だと思いますが、イメージ、無意識の領域は、絵を描くといった手法の方が、適切かもしれないということですね。
そして、自分では無意識に抑圧してしまうような心の動きも、絵画を通して表現され、新たな側面に気づく可能性もあります。
絵画療法の効果
大森5)によると療法によって,
①カタルシス,昇華,葛藤の解消と解放,
②自分が表現したものと改めて見つけることによって得られる「気づき」,自己の内面に潜んでいる問題点の把握,明確化,客観化,
③内省,洞察の促進,
④創作と通した自己実現の喜び,心と体が一体となっている自己の認識,生のエネルギーの回復,といった効果が得られるとされています。
ちょっと想像しにくい効果もあると思うので、絵画療法を受けた患者さんの声を紹介しますね。「絵を描くとスッキリする」「絵を描いて生きている実感が湧く」「絵の時間が楽しみ」といったものがあるそうです6)。
まず、スッキリする(=発散)には、カタルシス(ネガティブな感情の解放、浄化)や葛藤からの解放があたりそう。そして、生きている実感(=生きがい)には、心と体が一体となっている自己の認識、楽しい時間(=趣味)には、生のエネルギーが回復するという効果がありそうです。
効果について、カタルシスを得たり、葛藤から解放されたりして、スッキリする✨心と体がしっかり繋がっている感覚が生まれて、生きている実感が湧いたり☕、生きるエネルギーが回復して、絵を描く時間が楽しい時間になったり😄することがわかりました。
(量的研究)
量的研究とは、質問紙の回答や絵画を数値に変換し、統計的な解析をする研究手法です。ここでは、明らかになった効果ごとにいくつか研究を紹介します。
・ネガティブな気分への効果😰
(Bar-Selaら7))
対象:化学治療中のがん患者さん
療法:水彩による絵画療法
効果:4回以上参加した群で抑うつ気分が有意に減少⤵
(溝上8))
対象:統合失調症*,うつ病*,双極性障害*の患者さん
療法:集団絵画療法
効果:一回の実施で,抑うつ気分,緊張感,不安感が軽減⤵
・ポジティブな状態への効果😊
(甘庶ら9))
対象:精神疾患*を持つ患者さん
療法:絵画療法
効果:6回以上の実施で「集中できる」「楽しい」などの項目の得点が有意に上がった⤴︎
・症状の緩和🎗️
(溝上10))
対象:統合失調症*の患者さん
療法:9回の個人絵画療法,
結果:絵画療法の経過で、精神状態が改善し、一つの作品あたりの描画時間と面積が減少した⤵︎また、患者さんの症状が落ち着くと、描画時間は短くなる傾向が明らかになった。
セラピーの効果は、統計的に数値が変化したということで示されているのですね。そして、一度のセラピーの効果を検討した研究もあれば、6回、9回など実施を重ねた上での効果を検討している研究もあります。
(質的研究)
質的研究とは、絵画療法で描かれた絵の内容や表現、言語の内容を、個別に検討する研究手法のことです。ここでは事例を一つ紹介します6)。
事例)精神疾患*の患者さん
描いた絵の特徴:
言語表現(「題名」コメント)
太い筆で絵の具を叩きつける:
「静かな気持ちになりたい」周りの世界はいらない
前回よりも絵の具を叩きつける回数が増えた:
「うるさい, 静かにして」うるさくてたまらない
渦巻いた筆致:
「向こう側」知りたいのか知りたくないのかわからない
筆致の落ち着き:
「よみがえるへ向かう」なんとかしたい
筆で水滴を置くのみ:
「静か,綺麗」純粋で優しくあってほしい
岩井11)は、「思い切り画面に色を叩きつけることには、全身にうっせきされたものを解放する効果がある」というように述べています。塗りたくりや叩きつけを通して、自身の怒りを表し、カタルシスを得たとの解釈がされています6)。そして、最後は、水滴を置くだけの穏やかな作品になったようです。
クライエントさんの描いた絵や付けた題名、コメントに、質的な変化が見られるということですね。「叩きつける」💥からそっと「置く」💧作品になったということで、随分変化したなと思いました。
まとめ
芸術療法のイメージがなんとなく湧いたでしょうか?
芸術療法の具体的な効果やその根拠について知ってもらえたかなと思います。絵を描くことは、身近な活動ですが、治療法として成り立つのですね。なんだかモヤモヤする時😶🌫️は、言葉にすることに加え、何か絵を描いてみる🖌️というのもアリかもしれません。
機会があってたまたまこのブログを担当しましたが、心理学を勉強中の学生として、大変学びになり、芸術療法について興味が湧きました。注意点もあるようですが、CORNUMの活動の中で,絵画療法の要素を取り入れた企画ができたらなと思います💭
*書籍6)の内容をご紹介し、それに対し、個人的な感想を加えた形式になっております。もっと詳しく知りたい方は、参考文献をご参照ください
→アメリカのアートセラピーについても気になる方はぜひご覧ください
補足 精神疾患について、あまり認知されていない可能性があるので、簡単に主な症状、有病率についてまとめました。
統合失調症*:100人に1人ほどの比較的一般的な病気で、「幻覚」や「妄想」の症状を特徴とする。
うつ病*,双極性障害* :
これらは気分障害と呼ばれ、気分の波を症状の特徴とする。
うつ状態では、気持ちが落ち込み、何もやる気がでない、以前楽しかったことも楽しめない、自分を価値のない人間だと思うようになるなどの症状があります。
また、躁状態では、気分が過剰に高揚し、生活に支障をきたすような浪費をしたり、眠らずとも活動し続けたり、怒りっぽくなったりする。うつ状態のみあるのがうつ病、うつ状態と躁状態を繰り返すのが双極性障害です11)。うつ病を経験した人は、100人に5人ほどになります12)。
統合失調症は100人いたら1人、うつ病は、100人いたら5人くらいの割合なのですね。40人クラスだとしたら、3クラス中、1人くらいは、統合失調症を発症しているかもしれないし,1クラス中、2人くらいは、うつ病の症状があることも考えられます。
もちろん年代によって有病率は変わるので、一概に言えませんが、比較的身近な病気です。その人に関わる人となったら、もっと数が多くなりますよね、家族、友人、学校、職場、地域…既に詳しい方もいらっしゃると思いますが、多くの人が知っておいていいと思います!
3)飯森員喜雄:芸術療法の適応と注意点.飯森眞喜雄編:芸術療法.日本評論社,東京,2011
4)マーガレット・ナウムブルグ著、中井久夫監訳、内藤あかね 訳:力動指向的芸術療法。金剛出版、東京、1995
5)大森地一:現代の芸術療法、精神維誌102:56-61、2000
6)溝上義則: アートセラピーBasicー精神作業療法・デイケアで使いたい12のメソッド-,2019
7)Bar Sela G, Atid L, Danos S, et al.: Therapy improved depression and influenced fatigue levels in cancer patients in chemotherapy. Psycho Oncology 16 : 980-
984,2007
8)溝上義則:単回の絵画療法の精神症状に対する効果一予備的研究.日本芸術療法学会誌39(2):40-46,2008
9)甘裕美、岩満優美、堀江昌美、他:集団療法としての絵画療法の効果一音楽併用の有無およびぬりえ・写生の比較一. 精神科治療学18:333-339,2003
10)溝上義則、寺尾岳,山下瞳、他:絵画療法を試みた統合失調症の1例;描画時間・面積からの検討. 九州神経精神医学 59:77-82,2013
11)厚生労働省:
12)一般財団法人日本精神科病院教会:https://www.nisseikyo.or.jp/guide/psychiatry01.php